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ぼっちがぼっちじゃなかったから困る話



三人集まって歩くと、必ず後ろを歩く羽目になる奴がいる。みそっかす、と呼ばれるとか、石を投げられるというほどのことじゃない。しかし何かを選ぶというときに、必ず切り捨てられる側になるのが、僕だった。
「おう、どうした、ーー」
笑う友のことは、苦手だ。

「珍しいじゃないか、ここまで来るのは」
「そうかね」
「そうさ、暫く振りだ」
「忙しいのさ」
忘れていた様に云うが、僕を忘れていたのは彼らで、彼らを忘れられないのが僕である。
「売れっ子だものなあ。店はどうだい」
「それなりに。君たちも上手くやっているんだろう」
愛想がまるでない僕の返事に照れ臭そうに頬をかいた友人は、「お陰様で」それは陰りのない晴れやかな声で笑った。殴ることを思いつかなかったのは幸いである。築き上げつつあった信条を早くも粉々にし尽くす前に、僕は薄っすらと笑みをつくる方法を思い出した。

あぶれた一人が僕ならば、彼は前を行く友人の片割れである。僕の最も親しい友人の、一人だ。僕は彼の最も親しい友人の一人とはいかないが。
先を行く二人が互いの手を取り共に未来を歩もうとしたとき、僕の手に許されたのは、二人の背を押し出すことだけであった。

商売人ふたりと職人の子では、見る世界が違うのは知っていた。どこかに痛みを覚える己こそに衝撃を受けた。
そんな僕だからこそ手を取れなかったのか、そもそも問題にすらならなかったのか、ぼんやりとそんなことを考えていた。

間も無くして両親が首を括った。

経営が厳しくなり、人を雇う余裕もなくなって工房を経営していた両親が首を括った。
愕然としている間にも、時は流れた。殆どの土地は二足三文で買い叩かれたが、さっそく経営が好調となっていた有能な「友人たち」は、工房の中心部だけでもなんとか、と急いで買い取り僕に貸し付けてくれた。僕は家族の死も、友人たちの温情も、全てを夢の中にいるような心地で受け止めた。
感謝すべきだということはぼんやりと分かっていたが、それさえまともに出来ない僕に友人たちは暖かかった。
彼らは「なにも知らず済まなかった、お前の様子がおかしいことは知っていたのに」と悔やむのであった。

初めて僕は、工房の苦難にも親の苦悩にも友人の苦労にも自分の未来にも何一つ興味関心を持たぬ己に気がついた。

友人たちは僕を置いていき、両親は僕を連れて行かなかったのだと思っていた。しかし彼らは僕に協力しようというときになって初めて、「不謹慎だが」と前置きした上で、僕とともに商売ができることを喜んだ。
置いて行かれたのではなく、歩みを遅らせ、口を閉ざし、耳を塞いでいたのだ。
その証拠に、さも思いやりのある風を装って、彼は未だ親の死を嘆きすらしていない。僕の観測下において、あってもなくても良いのは、僕だけではなく僕を取り巻く全てであった。

その夜僕は初めて、己の瞳は「無感動」を湛えるとひどく澄み切った深い青になるのだと知った。
あってもなくてもよい、ものだらけではあったが、その内には、とびきり美しいものがあるのだと知った。

生きるのになんら必要のない宝石が、何より価値があると人々を惑わすように。


多すぎる、と眉を寄せて困るような素振りの友人に家賃を押し付け、ついでに「要らなければ売ってしまえ」と二対の硝子の器を押し付けた。
嫁を貰ったばかりの友人たちは、商売人としては有能であったが身内を喜ばす手技にはとんと疎い。しばし首をかしげていたが、それが当代風の夫婦茶碗だと気付けばやはり子供の様な笑顔になった。

お前は俺たちにも気障なやつだなあ、と決して嫌味のないからかいに薄っすら笑いながら、僕の胸中に浮かぶのは「しがらみは瞳を濁らせる」ただそれだけの感想だった。
借りがあるままでは、捨てるに困る。それだけのことだ。
それだけのことを終えるのに、僕はいつまでも手間取っている。だから僕は友人たちのことが苦手で仕方ない。


柔らかく熱した硝子が徐々に冷え固まり透き通る瞬間を見つめるのが好きだ。
友人たちの遠のく背を見送ったまま完全に足を止めたときこそ、己は真に「価値あるもの」と惑わす鉱石になるのだと思っている。
ずっとそれを望んでいるのだ。


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おわかりかもしれませんがコイツです
2014/05/26(月) 23:51
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